老犬のおもらし|しつけより寄り添うトイレケアの工夫
老犬になって気づく変化のひとつが、トイレの失敗です。
それまで何年もきちんとできていたのに、ある朝突然、部屋の隅でおもらしをしていたのです。
そんな出来事に驚き、戸惑い、どう受け止めればいいか分からなくなることがあります。
これは、老犬のしつけが崩れたわけではなく、体が少しずつ変わってきたことを教えてくれる
静かなサインなのかもしれません。
この記事では、老犬とトイレにまつわる今を、飼い主としてどう支えていけるかを
けんしとの暮らしを通して考えてみたいと思います。
老犬がトイレを失敗する理由──しつけではなく、体の変化

まず知っておきたいのは、老犬のトイレの失敗は、しつけの問題ではないということです。
成犬の頃にはきちんとできていたトイレが、年齢を重ねるにつれてうまくいかなくなる
そんな変化には、いくつかの理由があります。
たとえば、体の仕組みの面では「排泄を我慢する力」が少しずつ変わっていくことがあります。
膀胱や尿道を締める働きがゆっくりになり、特に寝起きやくつろいでいる時には
トイレまで間に合わなくなることがあるのです。
また、認知機能が少し変化して
「トイレの場所を思い出すのに時間がかかる」
「そろそろ行こうという感覚が以前より遅れる」といったことも見られます。
これは、犬自身の意思や性格の問題ではなく、心や体のリズムが、ゆっくり整おうとしているサインといえるかもしれません。
さらに、高齢期に多くなる持病や、その治療のための薬によって、排泄の回数や量に変化が出ることもあります。
特に水分量が増えることで、結果的にトイレに行く回数が多くなることもあります。
こうした変化は、実は人間でも同じように起こることがあります。
年齢を重ねると、体のコントロールや動きのリズムが少しずつ今までと違ってくる──それは、ごく自然なことです。
けんしの場合、もともとトイレを我慢するタイプでした。
散歩以外ではほとんどせず、ペットホテルでは24時間も我慢してしまったこともあるほどです。
だからこそ、ある朝おもらしをしていた時は、本当に驚きました。
前の晩にも一度済ませていたはずなのに、朝の準備中、ほんの10分ほどの間に合わなかったようです。
子どもが2階から「ママ、けんしがおもらししちゃった」と呼ぶ声で気づきました。
見ると、腹巻きが濡れていて、紙ゴミのコーナーにおしっこをしていました。
ああ、我慢できなかったけれど、それでもちゃんと紙の上にしようとしたのだと思いました。
それは失敗ではなく、けんしなりの「できる限り」だったのだと感じたのです。
老犬のトイレ失敗に対して、私が行った工夫
老犬がトイレを失敗するようになったとき、叱るのではなく、環境を整えてあげることが大切です。
ここでは、けんしとの暮らしの中で取り入れた工夫をいくつかご紹介します。

①トイレシートを増やし、置き場所を見直す
寝床の近くや、普段よく過ごす場所の近くに、トイレシートを追加しました。
移動に時間がかかる分、近くにあるだけで安心につながります。
けんしが紙ゴミのコーナーでおもらしをしたことも、紙の上ならいいという意識があったからかもしれません。
その場所にも小さなシートを置くようにしました。
②朝起きたらすぐに外へ連れ出す
老犬は朝の排泄が間に合わないことが多いと知り、起きたらすぐに散歩へ出るか、シートの場所に連れ出すようにしました。
準備の時間を短くするだけでも、失敗が減ることがあります。
③マナーベルトや介護用おむつを活用する
外出先によっては、マナーベルトや犬用のおむつを準備ようになりました。
これはしつけの後退ではなく、お互いに安心して過ごすためです。
けんしも慣れてくると、特に嫌がることもなく受け入れてくれました。
けんしが比較的負担なく使えたタイプは、こちらです。
④水分のタイミングを調整する
夕方以降の水分量を少し控えめにして、夜中の排泄を減らす工夫もしました。
ただし脱水にならないよう、日中にしっかり飲ませることは忘れずに。
⑤失敗しても、静かに片付ける
何よりも大切にしたのは、失敗したときに慌てず、静かに片付けることです。
けんしは敏感な子なので、飼い主が焦ると不安になります。「大丈夫だよ」と声をかけて、淡々と対応するようにしました。
おもらしに向き合う中で感じた、飼い主としての揺れ
正直に言えば、最初は戸惑いました。
何年もきちんとできていたことが、できなくなる。
「ああ、少しずつ変化してきたんだな」と思う瞬間でもあり、胸がぎゅっとすることもありました。
けれど、けんしが紙の上でしようとしていた姿を見たとき、彼なりに、ちゃんとしたいと思っていたのだと気づきました。
それは、きちんとやりたい気持ちはあるけれど、体やタイミングが思うようにいかないだけなんだと感じました。
老犬のしつけとは、もう一度教え直すことではなく、できなくなったことを責めずに、どう支えるかを考えることなのだと思います。
「介護」というほどの特別なことではなくても、ちょっとした工夫や気づかいが、安心につながることを感じています。
おもらしをしてしまったけんしは、少し申し訳なさそうな顔をしていました。
でも私は、その日から「できなくて当たり前」と思うようにしました。
むしろ、今まで何年もちゃんとしてくれていたことに、あらためて感謝の気持ちが湧いてきたのです。
今だから言える気づき──老犬のトイレは、しつけではなく寄り添い
老犬のトイレの失敗は、飼い主にとって、何か寂しいように感じることもあります。
でも実際には、新しい関係の始まりでもあると思います。
できていたことができなくなるのは、犬にとっても不安なことです。
だからこそ、責めるのではなく、静かに寄り添うことが、飼い主にできる最大の支えになります。
老犬のしつけとトイレについて悩んだとき、まず思い出してほしいのは、「これは失敗ではない」ということです。
それは体の変化であり、犬が生きている証でもあります。
焦らず、少しずつ環境を整えて、できる工夫を重ねていく。
それが、老犬との暮らしを穏やかに続けていくための、ひとつの答えなのかもしれません。
けんしが紙の上で排泄していたあの朝、気持ちが揺れて、なんとも言えない気持ちになりました。
でも同時に、「ありがとう」という気持ちも湧いてきました。
今も一緒にいてくれること。
それだけで、十分なのだと思えた朝でした。
≫≫ 老犬の介護で疲れたときに見直したい、家族との話し合いと小さな支え方

